本編〜第3話

 俺の名前はソリッド=スネーク、遅刻の回数が半端ないので教頭の方の若いキャンベルが直々に俺に説教を下す事になった。何故かわからないが喫茶店「サンヒエロニモ」に呼び出された。学校で説教すればいいものをどうして喫茶店なんかで……。本当に変人しかいない……。ちなみに「サンヒエロニモ」は「ソ連」という企業系列の喫茶店らしい。
 俺がその「サンヒエロニモ」に入った途端、レジで寝ていた店員が急に目が覚めて俺の方を睨んできた。
「お前は……!」
 そいつはいきなり俺に襲い掛かってきた。俺はそいつの拳をつかみ攻撃を止めた。
「回復(目が覚めてからの行動)が早いな……!」
 何で俺はこんな事に関心しているんだ……。何故かいつのまにかキャンベルまで傍にいる。するとその店員はキャンベルの胸ポケットからボールペンを奪い、自分のポケットに入れてあった伝票に何かを書こうとした。何故かわからないがとてつもなく嫌な予感がした俺はその店員を得意のジュードーで床に投げつけた。
「判断力もある。よく教育されているな。いい社員だ」
 何か俺が言うはずのないセリフに思えるが細かい事は気にしないでおこう。
「あんた達は……何者だ!?」
 客以外に何がある。企業の上層部が学ランを着ているか?
「俺は、スネークだ」
「スネーク? コードネームだな。アメリカ人か。あんた達もFOXなのか?」
 会話がどんどん訳のわからない方向に行ってしまっている……。しかもコードネームって何なんだ? 確かにスネークは偽名だが……。
「俺達はFOXの反乱を阻止するためにこの店にやってきた。FOXは強力なドリンクバーマシンを使って全ファミレスを合併しようとしている」
 なんであんたがそんな事を知っているんだ。あんたは俺を説教するためだけにこんな喫茶店に来たんじゃないのか? しかも何だ、ドリンクバーマシンでファミレス合併って。
「FOXの従業員を恐れる気持ちはわかる。だがこの反乱を抑えるためにはソ連の力が必要なんだ。力を貸してくれ」
 どうしてあんたがこの件に関わろうとするんだ。俺は早く説教されて帰りたいんだよ。しかもFOXといえばファミレス系企業の業界一の大手会社じゃないか……。確か社長の名前は「ジーン」だったっけ。
「ジーンを倒して俺達を解放する。そのために俺達の力を貸してくれと?」
 もうだんだんこの場所に何をしに来たのかわかんなくなってきた……。そう思っていると急に店員が笑い始めた。
「何がおかしい?」
 お前だよ。
「やはり、洗脳か?」
 キャンベル、あんたがそう言っても俺から見たらあんたこそ何かに洗脳されているよ。
「俺達がジーンに洗脳されていると言うのか? 傑作だ。あんた達は何か勘違いしているようだな」
 そう、学校で説教すればいいのにわざわざ喫茶店で説教するなんてこいつは何か勘違いしているんだ。もっと言ってやってくれ。
「最初に裏切ったのは俺達の企業のほうだ。五月病、慣れない先輩、貧しい給料……」
 いや、そんな事より頼むからこいつに気づかせてやってくれ。
「ジーンは俺達の企業を作ると言った。従業員を売り上げの道具として使うのではなく、俺達そのものが企業という企業。ジーンは俺達に高額な給料を与えてくれる……」
 何だ今のセリフは?さっぱり意味がわからん……。
「お前達にジーンは止められない」
 まあそうだろうな、元々止めるつもりはないし。だが俺の体と口がまるで何かに乗り移られたように動き出した。
「給料か……。給料という言葉の意味は時代によって変わっていく。自分の遊ぶためだけの金か、家族を養うための金か……。給料でもなく、企業でもなく、自分に忠を尽くして彼女は退職していった」
 ああ……、口が勝手に動いていく。あなたの陰謀ですか? お父さん……。
「あんたに商売を教えた師匠か。何者だ?」
「彼女は、ザ・ボスと呼ばれていた。俺が辞めさせた……」
 え、これじゃ俺ってただの先輩イビリじゃないか! しかも誰だ、ザ・ボスって!
「ザ・ボスを、伝説の社員を辞めさせた!? そうかスネーク、あんたがビックボスか! グロズニーグラードでヴォルギン店長にコーヒーをかけた英雄……」
 俺は何故か笑顔になって言った。そんな自分が嫌になる。
「社員として互いの忠を尽くせ。彼女は俺にそうも言った」
 するとその店員は何か考え込むような表情をした。
「社員として互いの忠……。給料でも、企業でもなく、自分に忠を……」
 その店員は俺の方を向いた。すごく真面目な表情だ。ああ……、その表情たまらない!
「ジーンは本当にドリンクバーマシンを使ってファミレスを支配するつもりなのか?」
「本当だ。学校から持ち出した機密文書に記されていた。信じられないだろうが……」
 信じられるか。何でファミレス関係の機密文書が学校にあるんだ。
「いや、信じよう。ソ連の社員としてではなく、一人の従業員として……」
 何故信じてしまうんだ。しかもなんだ、一人の従業員って……。
「俺はあなたに従う。仕事を与えてくれ、スネーク!」
 俺はハローワークの社員ではない。この町、本当に変人しかいない……。