特別編1−1

 俺の名前はソリッド=スネーク、もう夏だ。夏といえばやっぱり肝試しだ。これは俺の住む変人ばかりの町でも例外ではない。肝試しと言っても町内の人間が集まって盛大にやるというものではない。俺のクラスのバカ共(一名を除く)と一緒にある廃墟になった店に訪れているのだ。メンバーは灰色狐ごとグレーフォックス、プレイボーイの一人の雷電、クラスのマドンナの雷電の女王様でもあるローズマリー、そして俺が日々VR訓練(クラスのバカ共は妄想やら○○○○と言うが決してそんなものではない!)でご一緒しているEVAちゃん、だ。そして舞台となる店はかつて大人気を誇っていたハンバーガーショップ、幕怒奈留怒だ。
 俺達は山中にある幕(マック)に雷電の無免許運転によって訪れた。到着し、車を降りた俺達は店の前に立った。恐ろしい空気が漂っている。今にも後ろから何かが来るような気がする。そう、言葉では言い表せない何かが!
「スネーク……」
 何かが俺の背中にくっついた。俺の耳に吐息が当たる。湿っていて気持ち悪い!
「思い出さないか? この肉のぶつかりあい……」
 うわ……、狐が喋りかけてくる……。気持ち悪い!
「さあ、俺を感じさせてくれ……!」
 前に聞いたときはもっとシリアスな場面で覇気を含むセリフのはずなのだが……。

 さあ、気を取り直して俺達は廃墟の中に入っていった。看板には「幕怒奈留怒・DARPA本社」と表示されている。中の案内図と見た限り、結構広々とした構造になっている。一階は客の食事の場所、調理場、店長室、二階は社員食堂、ロッカー室、三階はボイラー室、機械室などで占められている。何より調理場がとても広いため上の階もそれに伴って広くなっている。
 俺達は先ず客の食事場所にやってきた。液晶のでかいテレビが置いてある。それにしてもなんて暗いんだ。全員サーマルゴーグルを装備して中を進んでいく。
 すると急にテレビの電源がはいった。誰もいじっていないし、もちろん俺達の他には誰もいない。全員が驚きながら画面に釘付けになっている。画面には砂嵐しか映っていなかったが、しばらくすると妙な音楽が流れ始めて画面に何かが映った。
「ドナルドのうわさ♪ クシュン!」
 全員が目を点にしながら画面を見ていると、赤い髪の毛に白い顔、赤と白のシマシマ模様のシャツの上に黄色い服を着たピエロが映った。
「ランランル〜♪ ドナルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだ♪ みんなもやってみようよ? いくよ♪ ランランル〜♪」
 今までで見たもので一番恐ろしい物体だ。EVAちゃんとローズは涙目になっている。
 奥へと進んでいくと何か写真付の表彰状のようなものが目に入った。さっきのピエロがスーツを着たオジサンにその赤く分厚い唇でキスをしている写真がある。オジサンは今にも魂を抜かれそうな顔を、ピエロは何か美味いものでも食べているかのような顔をしている。表彰状にはこのような書かれている。
「蛇を全部食べたでしょう? あなたは五匹の特別に不味い蛇を食べ、尚後に嘔吐をしなかった事を賞します。 C(ちょっと) I(イタイ人) A(危ない人) の会会長」
 ……なんだかため息が出てきそうだ。

 二階に上がると急に狐がトイレに行きたいと言って男子用トイレに向かっていった。奴の目は何だか俺についてきてほしそうな顔をしていたが見事な無視術でそれを流した。
 トイレの中ではグレーフォックスが小便をし終わっていた。やはり廃墟なので水は流れない。だが……。

 突然後ろの個室から水が流れる音が聞こえた。

 フォックスは怯えた様子で個室の方を向いた。扉が不気味な音を立てながらゆっくりと開いていく。その中からは赤い髪の毛をした奴が!その赤く分厚い唇を嘗め回しながらこう言った!



 ランランル〜♪


 俺達は外で狐が戻ってくるのを待っていた。だが帰ってきたのは奴の恐怖に満ちた絶叫の声だった。これを聞いた女二人は叫びながらその場を逃げていった。女の子二人をほっておくのはとても危ない! 何がいるかわかんないんだ! もしかしたら変な男に襲われるかもしれない! そんな事はこの俺が許さない! EVAちゃんを襲っていいのは俺だけだ! こんな時のためにVR訓練を重ねてきたんだ! やべっ、鼻血が……。
 とにかく俺と雷電は女子二人を追いかけていった。


 後ろからは赤い長靴を履いた「奴」がゆっくりと迫ってきていることを、その時の俺達は知る由もなかった……。