第15話

 不気味に静まり返った施設にけたたましい音が響き渡った。子供達はその音に驚いて体を強張らせた。これが総司令官の言っていた「合図」に違いない。誰もがそう確信した。それを証明するかのように、AKを持った兵士が子供達の部屋に入り込んできた。兵士は子供達が怯えそうな表情をして銃を向けて、彼らに外に出るように指示をした。彼らが歩いていると銃を振り回し、走るように怒鳴り散らした。その声に子供達は恐怖心を煽られて駆け足になる。
 ダリもそれに続いて廊下を走っていく。しばらくすると、先ほどの同じように、別の部屋にいた子供達と合流した。中には頬が晴れ上がっている子供もいた。おそらく兵士に殴られた跡だ。そして、例によってあの子供もいた。妙に冷静なあの子供。彼はダリに気づかずに走っていった。暗いトンネルのような廊下を走り、出入り口に到着した。見張りの兵士によって扉が開けられ、外の光が隙間から入り込んで周りを照らしていく。先ほども見た、殺風景な場所である。だが先ほどと違うのは、中央部分にトラックが駐車されているということだ。子供達は砂地に足を踏み入れてゆく。足の指と指の間に砂が入っていく感触、慣れたはずのものなのだが、この場所が場所なだけに、嫌悪感のようなものを子供達は覚えている。
「何をしている! とっとと整列しろ! あのトラックの傍に並ぶんだ!」
 またもや兵士が子供達を怒鳴りつける。兵士の数は五人である。皆がそれぞれAK―47を装備している。
 子供達が整列を終えると、施設の方から一人の男が現れた。兵士達は全員、子供達のことを忘れたかのように、その男に向けて敬礼をした。一歩一歩と靴で砂地を踏みしめながら、ゆっくりと子供達に近づいていく。男が足を止めた。
「楽にしろ」
 ダリはその男の顔をよく見た。その男の顔を忘れるはずがなかった。彼は、ダリ達の目の前で少年の頭を拳銃で撃ちぬいた、あの将校だった。
「これから君達の訓練を担当する、ロムド=イグザルという者だ。階級は中佐。まあそんなことを言っても今の君達には何のことかわからんだろうがな」
 声は少し穏やかになってはいるが、その奥に潜む残虐性は全く変わっていない。彼は最初は比較的穏やかな声を出していたが、その男は何のためらいもなく子供を撃ち殺せる。それはこのロムドという男に限ったことではない。この施設の兵士全員がそうなのうであろう。
「まず必ず守らなければいけない事を言っておこう。まず、私の事は教官、もしくは中佐と呼ぶこと。次に、私に限らずここにいる大人の言うことには逆らわないこと。まあ、これはさっき総司令官が言っていたから大丈夫だろう。今のところ、言えるのはこれくらいのことだ。これ以上は総司令官の言った事とかぶってしまうからな。
 さて、これから訓練を行うことになるわけだが、その前にその格好を何とかしなくてはならない。そこで、私達からささやかなプレゼントを君達にしたいと思う」
 ロムド大佐がそう言うと、兵士達が停めてあったトラックの荷台から黒い袋を放り投げ始めた。バスケットボールが一個と半分くらい入りそうな大きさである。
「さあ、あの袋を一人一つずつ取りにいくんだ。受け取ったら中身を取り出しなさい」
 砂地に落ちている袋を拾って中身を確かめてみた。簡単な黒い靴と、迷彩服が入っている。
「服と靴が入っているはずだ。中身を確認したら、服を着替えて靴を履くんだ。五分ですませろ。五分ですまない者には罰を与える。まあ安心しろ。この罰は命までは取りはしない……」
 理屈でわからなくとも、子供達は今の言葉の意味を直感で感じ取り、急いで服を着替え始めた。上着のボロを脱いでから迷彩服の上を着る。下半身も同じようにしていく。着替え終わったら靴を履いた。紐靴ではないので、本当にただ履くだけであった。全員これを五分以内に終わらせることができた。
「よし。まずは全員合格だ。ではこれから訓練に移る」