突然の解雇≠ゥら1か月半… グラビアクイーン小向美奈子が衝撃告白 私が見た「副業は売春という悪夢」     「美奈子なら600万とれる」  まずは本号のグラビラをごらんください。以下、この人が語り手です。  都内のホテルで5回にわたってインタビューをした。  雑誌やテレビで宣伝されてきた「清純派」とのギャップが、こちらを驚かす。  ハット、タンクトップからパーカー、ホットパンツまでいつも全身、黒。  「アイドルになるといちばん何が起きるか。分ります?お金を持ってる男がわっと群がって、やりにくる。ほんとに、とつぜんいっぱい、くるの。  なぜかというと、アイドルを紹介することでお金を得ている人たちがいて、デートクラブみたいな仕組みができてる。闇社会の人もいます。 なかにはオーケーして、やっちゃう子もいる。  わたしは、見てませんけど。アイドルの知名度、顔、カタチで、A〜Dのランク値段つけたリストあるそうで。 お客を引き合わせたら、『自由恋愛』ってことになるの。一部をアイドルがもらう。  美奈子もさんざ、いろんなまわりの人から、現役のアイドルからも、持ちかけられた。  紹介屋の男の人に教えてもらったけど。仲介のおやじが、客から100万円ぐらい取って、 うち、Aランクの子なら30万円。ご飯食べたりお酒飲んだりしてだよ。  で、エッチになったら別にお手当が出るの。あたしも現役のアイドルからいわれた。 美奈子あなたなら、600万取れるって。ほかにもおいしいこといわれたよ。『相手、社長だよ。CM決まるぞ』とか。  彼氏がいても、やっちゃう子はやっちゃうし。名前はいえない。でももちろん誰でも知ってるグラビアアイドルの子。  売春を副業にしちゃうグラドル、何人も見てきた。なんかもう、当たり前な感じだった」 ―あなた自身は?  「あたしは神様に誓ってやったことない。恋愛もセックスもそれなりにしたけど、お金で身体を許すことはしなかった」  中学3年、15歳でデビューして、清純な顔立ちと肉感的なからだの偏差に、 人気が沸騰したグラビアアイドルである。彼女らは、雑誌のグラビア、写真集、DVDなどで主に水着姿を売りにする。  8年経った今年9月下旬、公式HPに、『小向美奈子専属契約解除のご報告』が載った。 所属事務所の社長はファンに「深いお詫び」を表して、無念を滲ませた。  「本人の体調不良・精神不安定・音信不通状態なども幾度かあり」 「当社としましても深々の休養、再起に向けて最善の努力をはらい」「本人の意思・立ち直る兆し・仕事への意欲なども考慮に入れ、 復帰に向けて動きだしてきましたが、我々の予想以上に困難な状態となり」 ―「自由恋愛したい」というのは、噂になったグッドウィルの折口雅博会長(当時)とですか。  「折口さんとはなんどか食事行った。グッドウィルの関連会社が経営しているレストランやバー。 代官山のびっくりするような大豪邸にも。でも、エッチなんてしてないよ。折口さんと会う時っていつも(所属事務所の)社長もいたし。  むしろ、わたし、嫌われてた。『このワイン、ロマネコンティっていうんだ。知ってる?』とかいっちゃって気取ってんのよ。  酔った勢いでいっちゃた。『飲んだことあるわよ、ハゲ』って。折口さん、無反応。取り巻き、ドン引き。  いま笑って話してるけど、その時はすごく傷ついた。  だって、うちらのプライベートは、お金で買える商品だったんだよ。  事務所の社長は、『コムさんどうしてる?』っていつもあったかい言葉かけてくれた。 私にそういう世界をできるだけ見せないように守っていてくれた。だから今になって痛感してるの。いつか恩返ししなきゃって。  でもね、この悪夢の世界にいる人を信用できなくなったの。仕事への熱も薄らぎました」     箱の中には帯のついた札束が5個  当時、折口氏は40億円の自家用ジェットで、海外の別荘に女たちを連れて行った。そのころ、ベンチャー経営者の雄といわれた。  ホリエモンも同じようなことをしていた。ミスコンの女子大生やアイドルを乗せて。  六本木ヒルズに本社を構えた経営者の、そういう時代があった。  その時代のなかで、10代のアイドルは生きてそして疲労困憊し、 折口氏の率いた介護サービスの最大手だった<コムスン>は厚労省の処分を受けて撤退した。  そのために、「民間企業の参入で誰もが質の高いサービスが受けられる」という理念の介護保険制度は大きな禍根に見舞われた。  折口氏は、謝罪会見で「もういちどチャンスをください」と涙ながらに弁じだが、 直接は何も手をくだせず、過疎地、深夜の訪問介護を必要とする、おじいさんおばあさんの<介護難民>がいま続出している。  ホリエモンたちのIT企業も、粉飾決済だけではなく、暴力事件、覚醒剤逮捕、顧客情報漏洩まで、さまざまな事件を起こしてきた。  ヒルズの会社に、まだコンプライアンスが確立していなかった時代である。グラビア少女は波≠ノ翻弄された。  渋谷のマックでスカウトされたデビューの直後から、彼女を「困難な状態」に追い込む時代の波があった。  コミック誌のグラビアに何ページも載る。すると、教室で女子の攻撃が始まる。  上履きに画鋲を差し込まれたり、グループに睨まれたり、怖かった。結局、教室にいるより相談室の時間の方が長かった。 あまり思いだしたくない中学時代を経て、高校生になって売れ始めると、今度は社会の大人から、波が寄せてきた。  「わたし、お金があったわけじゃないよ。雑誌の表紙になって、ドラマの主役やった絶頂期でも、OLより給料安かった。 高校生の妹のバイトの方が高かった。事務所が一生懸命、営業かけてあたしを売ってくれたんです。 経費かかるでしょ。安くてもしょうがないのよと思ってた。  この世界、みんなお金ない。格差社会の下の方で生きてるの。だから、銀座、六本木でホステスやってるコもいた」  アイドルのギャラは、月給制の中堅で20万前後といわれる。 歩合制なら、事務所が5割程度を取る。ロケ1日あたり出版社が2万円払えば、アイドルには、1万円となる。  なるほど、格差社会を象徴する数字である。  「だから、『一緒に食事行こうよ、座ってるだけでいいから。お小遣いもらえるよ』って仲間に誘われると、みんなワーッとついていっちゃう。 その辺は、私も一緒。遊ぶのは好きだし、いろんなところに出かけた。  弁護士とか、またやっぱITの社長とか。テレビで見たことある人たちがいた。  ある日、1軒目終わると知り合いが『社長の部屋行こうよ』って。2人きりじゃないから平気かな? と思って行ったら『じゃ俺、仕事あっから』って帰っちゃう。 そしたら社長封筒出してきて。開けたら100万円入ってて。私、ありがとうございますって。  部屋出てきて、マンションのポストに、突き返してやった」  別のIT社長からはもっと嫌なこともされた。  「飲み仲間だと美奈子は思っていた人がいて西麻布の高級カラオケに行ったの。テーブルにかわいい箱が置かれて。 開けると、帯のついた札束が5個。あたしはモノかぁ?『友達だと思ってたけど、これで友達以下になったね』っていって札束を蹴り飛ばしてやった」     「最近、胸がいたいの。どうなっちゃうの」  そのころ、彼女は仕事に穴を開けた。新幹線で朝、名古屋まで行かなければならない。  ところが、玄関で靴を履こうとして意識を失った。夕方、気づいた。同じ玄関に立っていた。  脚が棒になっていたからか。体は倒れていなかった。記憶が、ない。  焦った。携帯の電話も切れていて、なおパニックになる。充電したら、留守電が山のように吹き込まれていた。  「いま思えば、このとき何かがこわれたんです。<清純派、清純派>と言い聞かせて、あたしが、あたしでいちゃいけない環境にぶち切れたんだね、 きっと。もともと、友達もちっちゃいときから、男の子のほうが多くて、しかも男勝りな性格。 それが、清純派?高校行ったのも、<清純派>が中卒じゃまずいだろって。  思春期で遊びたい盛り。でも学校終われば事務所に行かなくちゃなんない。  反撥して、家出して。  お父さんは工場持ってる。従業員さんが、『お父さんの机の中に、美奈子ちゃんが載ったグラビアいっぱい入ってるよって』。  芸能界に入る時、最初は『そんな信用ならん世界に行くな』って 反対してたお父さんだったのに、応援してくれてたんだって、うれしかった。 だから、あたしも<清純派>でいこうと。まあそれだけじゃないけど、疲れちゃった」  マネージャーが隣の部屋に住んで24時間監視状態のアイドルもいる。監禁に近く、自由に外出できない。 夕食はコンビニのサンドイッチ1個。痩せるためである。毎日、体重チェックがなされる。  「ほんとに厳しい世界なの。売れるためには、もちろん手段は選んでられない。年齢、出身地偽装は当たり前。  体をいじる、整形強要もよく聞いた。泣きながら、『事務所にいわれて、整形しなきゃいけなくなった』とケータイかけてくる子もいた。 このコ、まだ17歳だった。さいわい、うちはいわれたことない。  バラエティにひっぱりだこの巨乳が売りのあの子、楽屋で泣き声になってた。  『最近、胸痛いの。どうしたらいいんだろ、この先どうなっちゃうんだろ』って。  柔らかそうな胸を触ってみました。ぜんぜん柔らかくない。がちがちに硬い。  彼女いうの。『ここまでしたんだから、頑張って売れなくちゃ』。あたしは、そこまでの気持ち持てなかったということかな」     「心が完全に折れていました」  すらすらと語るのではない。ダイヤをちりばめたライターで、メンソールのタバコにひっきりなしに火をつける。髪もしきりに掻きあげる。  きわどい質問をすると、眉間に何本も皺を寄せる。  たとえば訊いてみる。 ―折口氏らが個室のカラオケで乱痴気さわぎをしていた時代、あなたは、何だった?  長く考えてから……。  「何だったんだろうね?」 ―悪夢に気づいたから、まだよかった。  一転、目をくるくると動かして……。  「そうかも。アイドルでバラエティや女優に転身して成功するなんて一部だよ。身体を売って転落した子いっぱいいるもんね。 あたしまだ良かったかな。救われるかな」  折口氏の率いた<グッドウィル・グループ>は廃業し、 大量のワーキングプアを生んだ。支店長で働いていた人たちが「名ばかり管理職」だったと、この10月訴え出た。 終電を過ぎても翌日の派遣スタッフが集まらない。会社に寝泊まって電話をかけつづけた。 その時間にカラオケでデタラメをやっていた会長への反撥もあるのか。  解雇の回避に向けた十分な手続きが取られなかったと、地位確認の申し立てをしている人もいる。  折口氏が退かされた後、<コムスン>は、各地のケアサービス会社に、事業を譲渡した。 しかし、そもそも儲かるはずのない事業である。なぜ介護事業に、さまざまな業者が群がるのか。  厚労省が、年間約7兆円の介護保険料を介護認定を受けた人に、支払うからである。 その小道具<高齢者専用クレジットカード>で、電動車椅子から、おまる、ベッド、むろん、ソフトの介護サービスまでをめぐって莫大なマネーが動く。  その一方で<介護難民>が生まれている。  小向美奈子の告白の中身は、そうして<コムスン>に置き去りにされそうになった、 全国のおじいさん、おばあさんや、この<グッドウィル>のワーキングプアが生まれる時代と重なる。  折口氏は、いま、アメリカ市民権を取得して、日本にはいない、という。  「昔のことがね、もう思い出せないの。事務所クビって。ヤフーのトップニュースになってるよって、友達に聞いて。 パソコン開いたの。胸が苦しくなった。社長のいうとおり、あたし、自分でも分るくらい、情緒不安定で。人前に出られる状態じゃなくなった。  本当は秋から、映画を撮るはずでした。役を聞いて、素直に『やってみたい』と思える素敵なお話で。 社長にもやらせてください、って伝えたのに、顔合わせに行くことができなかった。連絡も無視して、逃げた。それしかなかったんだよ」 ―彼氏とは?  「年上で初めは優しかった。でも一緒に住むようになって……ごめんなさい、いまはいえないんです。 好きだった、でも、彼といると……」  インタビュー中、再々誰かにケータイする。時には荒れた言葉も出てくる。  そうでなければ、こちらに対せず、黒い小さなノートにずっと黒いボールペンで絵を描いている。大好きな猫や鳥の絵。  臨床心理士の矢幡洋氏が診断する。  「彼女が突如、意識なくして、長い間立ち尽くしていたというのは、解離性遁走、の疑いです。  ストレスで混乱が生じて、自分は何者か、何をなすべきか分らなくなる、自分が自分でない感覚に襲われる。 15歳から8年間、思春期、青年期の大事な時代を大人に揉みくちゃにされて。 普通は、不眠症や胃腸障害に現れますが、彼女はレアケースで、抱えていたストレスは計りしれないものがあるようですね」  「自分でも怖くなるくらい不安定になって。どうなっちゃうんだろ、あたしって。 いっつも、自分にきいてんの、でも答えなんかない。心が完全に折れてました」  ―これからは?  「もちろん、グラビアアイドルの小向美奈子は卒業。  人を笑わせるのが、好き。そうだな。コメディアンになれたらいいな」