ハルヒに告白したのは昨日のことだった。
 実を言うとハルヒが好きだなんてことはかなり前から気がついており、でもあのいろんな意味でめちゃくちゃな存在のハルヒにそれを言うのはずっとためらわれていた。
 でも昨日、些細なきっかけでこぼれ落ちてしまった本音から、結局俺は告白しちまった。
 ハルヒはただ驚いただけで、その場で返事は出せなかったらしい。心の底でもしかしたらと言う気持ちもあったんだが、それは俺の勘違いだったみたいだな。『鍵』だとか何だとか言われたことで、少し自惚れていたのかもしれない。
 
 翌日のハルヒは不気味なほど大人しく、授業中に俺の背中をつつくこともなければ当然話しかけることもしない。
 俺は俺で何をどう話せば良いのかわからないという具合だ。情けない。
 この気まずい空気が続くのも嫌だったが、何より俺のせいでハルヒが悩んでいるのかと思うと、昨日告白したことを後悔してしまう。
 
 放課後、気まずくても取りあえず文芸部室へは一緒に向かおうとタイミングを合わせて並んで歩く。そこでようやくハルヒに話しかけることができた。
「ハルヒ」
 声をかけると、ハルヒは少し緊張した面持ちで前を見つめている。俺はこんな表情をさせたかったんじゃないんだ。
「もし、お前が答えたくないなら今のままでいいぜ」
「へ?」
 目を丸くして俺を見上げる。まあ昨日の今日だからな、驚くのも当たり前か。
「……キョンはそれでいいの?」
 正直に言うと良くない。フラれるのは怖いが、答えが聞けないと言う状態も結構辛いもんだ。
 それでも、
「今のまま何も変わらない。それでもいいんじゃないかと思う」
 お前が望むならな、と付け加えたかったがやめておいた。いらんプレッシャーになりそうだ。
「悩ませちまって悪かったな。あんまりお前が大人しいとこっちの調子が狂っちまう」
 これは本音だ。悩んでるハルヒなんて見たくないからな。こいつは笑ってる顔が一番いい。誰だってそう思うはずだ。
 
「ほら、早く行こうぜ」
 まだポカンとした表情のハルヒをおいて、わざと先に歩く。
「キョン!」
 ハルヒが、いつも通りのよく通る声で俺を呼んだ。
 
 振り返る俺に飛び込んできたのは、1つの、そして最大の幸せだった。