第35話(最終話)

 あれから三年後の一二月、ニューヨークの市街地にある銀行で立て篭もり事件が発生した。覆面をかぶり、拳銃を手に携えた男三人が強盗に入り、非常事態に装置が作動して逃げ道がなくなったため、銀行に訪れていた人々と店員を人質にとって篭城を始めたのだ。この装置はシャッターなどが閉まるものではなく、非常事態になるとシステムが作動し、内側と外側から出入りができなくなるのだ。尚、出入り口の扉のガラスは防弾性なので、ガラスを割る事もできない。
 この事件に警察の特殊部隊が現場に駆けつけた。この部隊はかつてスミスとジョセフが狙撃戦を展開した時に現場にいた部隊だった。銀行に向けてMP5を向け、いつでも作戦を展開できるように用意をしている。隊長は見取り図を開き、作戦の展開を指示している。
「いいか、まずは裏口に待機しいつでも作戦を行えるようにするんだ。それからコンピューターで銀行のシステムに侵入して非常システムを解除する。そして手はず通りにアレが実行され成功した瞬間に一気に突入だ!」
 その現場から約五百メートル程離れているビルの屋上に特殊部隊の隊員が一人いる。その隊員はM24SWSの狙撃銃を持っている。この屋上からは犯人達が篭城している一階の部屋が見える。強盗の一人が窓際にいるため狙撃しやすくなっている。

 隊員はM24に銃弾を装填していく。一、二、三、四、そして五……。銃弾を装填し終えると銃のストックを右肩につけ狙撃体勢に入った。
「隊長、こちらスミス、狙撃の準備が完了しました」
「了解だ、スミス軍曹。後はコンピューターのシステムを解除したら君に知らせる。それまで待機するんだ」
「了解」
 スミスは一旦銃を降ろした。彼は三年前のあの出来事をきっかけに軍を除隊し、警察の特殊部隊の狙撃部隊に入隊した。入院生活は六ヵ月だった。その間に少し腕が落ちたため、入隊はできたものの昇進までは若干の時間がかかった。だがそれでも三年で軍曹の地位につき、狙撃部隊の中でもかなりの腕前になっていた。
 そして彼は今、愛銃を手に携えて、再び狙撃手としてこの場にいる。
 現場の近辺ではノートパソコンを手にした男が銀行のシステムに侵入していた。この男は警察の関係者で、こういう時のために訓練を受けてきた者だった。
「……よし。システムの解除が完了! 隊長、準備完了です!」
「了解! 軍曹、あとは君のタイミングで狙撃をするんだ! 銃声を突入の合図にする! いいか、必ず成功させろ! 幸運を祈る!」
 無線で連絡を受けたスミスは再び狙撃銃を構えた。レティクルを窓際にいる男に合わせていく。その中心点は、標的の頭に合わせられている。スミスは右手人差し指をゆっくりと引いていく。次の瞬間、狙撃銃の銃口が火を噴いた。その銃弾はガラスに穴を開け、強盗の頭に命中した。他の強盗はその出来事に呆気に取られている。その隙に特殊部隊が中に侵入し、MP5を発射し強盗達の武器を落としていく。あっという間の出来事だった。スミスの狙撃を合図とし特殊部隊が突入し、強盗達を拘束するまで三〇秒すらかかっていない。
 すると隊長が無線機を出して本部に連絡をした。
「作戦終了! 死亡者は犯人、人質を含めて〇人! これより帰還します!」

   屋上ではスミスが薬莢を排出した。スミスはあれからもう人を殺さないという信念を貫いていた。それに伴って、愛用していたM24SWSを実弾仕様から麻酔弾を射出するもに改造をした。麻酔薬はどの部位に命中しても二秒かからずに標的を夢の世界に誘うという極めて即効性の強いものだ。これなら例え頭部に命中しても標的の命を奪う事はない。  スミスが退去の準備をしているところに無線が入った。
「よくやって軍曹! 五分後にここから完全に退去する! 時間に送れずに集合しろ!」
「了解です!」
 スミスが狙撃銃をケースにしまおうとした時だった。首から二枚の銀色のプレートが垂れ下がった。一枚は綺麗な銀色なのだが、もう一枚は茶色く変色している。スミスはもう一度空を見た。綺麗な青空がそこに広がっている。もし彼が未だに人を殺し続けていたら、この美しい空もきっと彼には濁った空に見えていただろう。しかし今はそうではない。

 スミスは銀色のプレートを握り締めながらその場から退去していった。きっとあの空の上では彼が喜んでくれている。今の自分を見て喜んでくれている。そう信じてスミスは自分の信念の道を歩み続けていく……。


 ―――完―――


 ■あとがき■
 この作品は紹介文の中にありますように、かつてMGOのコミュニティーで連載したデビュー作品のリメイク版です。オリジナル版では擬音(爆発音などを情景描写ではなく「ドーン」とかの音で表すこと)が多かった作品です。今回MGLさんの方で新たに作品を連載するにあたって、自分にとって再びデビューとなりました。そのためこの作品を作りました。

 オリジナル版は全一〇話に対し、リメイク版はその三倍以上の量になりました。この作品をどれだけの人が読んでくれて、どのように思ったかは自分はわかりませんが、少しでも面白いと感じていただけたのであれば幸いです。

 次回作も、かつてMGOコミュニティーで連載した作品のリメイク版です。ですが次回作は一応自分にとって最高傑作と位置づけている作品なので、是非ともやりたかったリメイクになります。次回作が終了したら、ある程度構想ができている完全新作を書きたいと思っています。

 最後に、読んでくださった方々、そしてこの作品を連載してくれた所長さん、本当にありがとうございました! 次回作も頑張っていきます!