俺の名前はソリッド=スネーク、今俺の横には車を運転するEVAちゃんがいる。俺達は今まさに、愛の逃避行の真っ最中だ。何から逃げているのかというと、不気味なピエロだ。非常に恐ろしいあいつが林の木々を俺達の方に蹴り飛ばしながら追いかけてくる。それもこれ以上にないほどの満面の笑みでだ。
しばらくすると木が飛んでこなくなった。俺が不思議に思って奴の方を見てみると、何かに甘えるように自分の人差し指と中指を口でしゃぶっている。実に気持ち悪い。だが指を口から離すととても恐ろしい形相に変わった。その表情はまるで「これでどうだー! 逃がすものかー!」と言わんばかりのものだ。するとその指を自分の尻の穴にぶち込んだ。次の瞬間、奴のズボンの尻の部分がどんどん膨らんでいく! そしてズボンが一気に爆発した! 暗い林の中だというのに、黄色いガスが目に見えるようにわかる。まさにロケットブースターだ。くせぇ。だがガスを直接その身に浴びている林の木々たちは俺達よりも遥にでかい被害を被っている。おそらく思う存分「ビッチ!」と叫びたい気分であろう。
ピエロは無意味に手を回転させながら俺達を追いかけてくる。肩を軸に回しているわけではない。手を伸ばしてドリルのように回転させているのだ。全く持って意味がわからん。だが俺が前方を見ると目の前には崖が広がっている。EVAちゃんは俺の方を見た。その愛くるしい顔に○○したい。するとEVAちゃんは急にハンドルをきった。激しい。激しすぎる。ピエロはその見事なハンドルさばきに対応できず、崖に頭から突っ込んでいった。見事に頭部がめり込んでいる。しばらくするとピエロは頭を引っこ抜いてこちらを見た。額から血が流れている。形相にも凄みがある。日本で有名な般若の面やおかめ納豆よりも恐ろしい。EVAちゃんが再び俺の方を見て言った。
「スネーク! チャンスは一度きりよ!」
チャンス、何のチャンスだろうか。たった一言で夜も眠れず。
「引きつけてつり橋を落とす。橋を渡りきったら縄に火をつけて焼き落として。支えている縄の数は、端に二本ずつよ!」
計四本、大丈夫だろうか、そのつり橋は。そうこうしているうちにピエロが復活して俺達の追跡を開始した。俺達はつり橋の方角に向けて逃走を開始した。俺達とピエロの差は全く縮まらない。何故かわからないが、ピエロは俺達を追跡しているとき、手を回転するだけでなく首を横に振って鳴らしている。
とうとうつり橋に到着した。本当に端と端に縄が二本ずつしかない。どういう原理なのだろうか。橋の近くには立て札がある。見てみると、
『このハシ、渡るべからず』
ふざけているのか?
EVAちゃんの運転する車は橋の真ん中を通って渡りきった。俺は車から降りてライターを取り出して着火させた。後はピエロが来るのを待つだけだ。来た来た。尻の穴からダイオキシンを撒き散らしてニコニコしながら近づいてくる。俺はつり橋の縄に火をつけた。見る見るうちに火が燃え広がる。そしてその火はとうとうピエロの所に到達した。ピエロはバランスを崩して谷に真っ逆さまだ。ガスにも端の方から火がついてピエロにも迫る。何故端の方から火がついたのかはわからない。その火がピエロに到達すると、谷の下で大爆発が起きた。爆音の外には
「ル〜〜♪」
という声が。
「すごい……」
EVAちゃんがつぶやいた。
「終わった……」
俺もつぶやいた。
一時間後、俺達はとあるホテルにいた。夏なのに暖炉が燃えている。おかげで俺は汗だくだ。EVAちゃんは先ほどシャワーを浴びて、何故か先ほどまで来ていたライダースーツに身を包んでいる。二人でグラスにキンキンに冷えたグレープジュースを注いで乾杯をする。
「これからどうする? 家に帰るのか?」
「帰れない。私は門限を破ったのよ」
「君は(俺達の)未来を助けたんだぞ?」
「私のね」
俺の思いも伝わっていないようだ。俺はもう一杯ジュースを口の中に流し込む。俺はめげなかった。
「それにディナーの約束をした」
実際はしていない。が、意外にもEVAちゃんは食いついてきた。
「ああ……。もしかして、ナンパ?」
EVAちゃんはグラスをカーペットの床に置いて俺の顔に自分の顔を近づけた。
「もう、誰の命令も聞かないわ!」
俺はその一言で理性の糸が切れた。夢中でEVAちゃんの顔に俺の唇を押し当てる。ついに夢が叶った。もう少し続けていればあんなことやこんなことも。EVAちゃんを床に押し倒して俺が上になる。お互いになってニッコリ微笑む。するとEVAちゃんは顔に手をやって思い切り引っ張った。
目を疑った。そこにいたのはあのピエロだった。こいつは間違いなく爆死したはずだ。俺は慌てふためいて奴から離れるが、足がもつれて転倒してしまった。その間にも奴は満面の笑みで俺の方に近づいてくる。俺はバスルームに逃げ込んだ。ユニットバス形式だから鍵をかけることができた。脱衣所に逃げ込んだ俺だったが、中からシャワーの音が聞こえる。俺は恐る恐るその扉を開けた。思わず悲鳴をあげてしまった。中ではいるはずのないピエロが中でシャワーを浴びていた。裸体、と表現していいのか判断に迷う。その体はとてもこの世のものとは思えなかった。そいつは俺の方を見て微笑んだ。
「ランランル〜♪」
その夜、ホテルに俺の悲鳴が轟いた。俺の夢、EVAちゃんとあんなことやこんなことがしたい、これは恐怖のピエロをパートナーとして叶った……。
終