第23話

 太陽がゆっくりと、しかし確実に昇っていき、気温もそれに伴って上昇してきている。日差しの熱も肌にジリジリと焼き付けるようだ。その状況の中で本日最初の訓練が始まった。
「いいか。まず銃についている安全装置を確認しろ。つまみの先端が斜め上を向いていれば銃が撃てない状態になっている。まずはそれを確認するんだ」
 ロムド中佐の説明を受けた子供達は銃の引き金の近くを見た。確かにそれらしいつまみが確認できる。先端も確かに斜め上を向いている状態だ。
「今お前達が手にしている銃には弾が入っていないから、引き金を引いても発砲されることはない。だがこの安全装置の確認は絶対に怠るな。では次に銃弾を装填する。袋の中に入っている弾倉を一つ取り出せ」
 袋に手を入れて鉄の入れ物を取り出した。やはりこの金属の塊にも奇妙な重さを感じ取ることができる。
「取り出したらこのようにセットしろ」
 ロムド中佐が手にしていた弾倉を銃にはめてコッキングレバーを引いた。
「これで安全装置を解除すれば銃弾を撃てる状態になる。さあ、やってみろ」
 ダリも他の子供達と同じように、先ほどの中佐の動作を真似た。弾倉を手にとって銃の下部に空いている穴にそれを押し込んだ。それからコッキングレバーを引いて、薬室に銃弾を装填した。この一瞬だけ耳元で聞いたコッキングの音が妙に頭に残った。一生忘れる事ができなさそうにダリは感じた。他の子供達も銃弾の装填が完了したようだ。その時、周りからカチャリと妙な音が聞こえてきた。銃を持った兵士達が安全装置を解除した音であった。おかしな行動を起こそうとしたらその前に阻止するためである。
「よし。今から私が空に向かって発砲する。まずは安全装置を解除して、一発だけ発射するセミオート状態にする」
 ロムド中佐がそう言うと、安全装置のつまみを操作して引き金を引ける状態にした。次に、銃口を空の彼方に向けた。彼の右手人差し指が引かれていく。次の瞬間、乾いた発砲音が轟いた。銃口から白い硝煙が立ち昇っている。排出された薬莢が砂地に落ちる。しかし、改めて聞く銃声はとてつもない音量で、それでいて恐ろしい音だ。
「次は引き金を引いている間、弾を撃ち続けるフルオート状態だ」
 安全装置をさらに操作し、再び銃口を先ほどと同じ方角に向け、引き金を引いた。反動と共に銃弾が立て続けに発射され、様々な方向に薬莢が散らばっていく。
「このような感じだ。さて、これからお前達にも実際に射撃訓練をしてもらう。それには的が必要になってくる。おい」
 兵士達は倉庫のような建物の中に入っていき、丸太のような物を運び出してきた。これがその的なのだろう。
「五人の列を作って後ろに並んでいけ」
 ロムド中佐の言葉の通りに子供達は行動する。列を作った後、子供達は安全装置をセミオートのところまで解除し銃を構える。右手人差し指を引き金にかけてそれを引き、発砲する。あまりの音の大きさに耳に若干の痛みが走る。ただやはり初めて銃を撃つだけあり、的の丸太にはなかなか銃弾が命中しない。にもかかわらず、ロムド中佐はフルオート射撃をしろと子供達に指示をする。言葉の通りにし、銃弾を連続で射出していくが、音の大きさだけでなく反動の強さでなかなか扱う事ができない。その強さに銃を落としてしまう者、中には後ずさりし、尻餅をつく者も現れた。そのつどに中佐は激を飛ばしていく。ダリの順番になり、彼も同様にセミオート、フルオートと銃を撃つが、やはりうまく扱う事ができない。激を飛ばされ後ろに下がったダリの目に、ある人物が映った。例の少年である。この状況下に置いて、恐怖を全く感じていないような少年が、AKを持って、今まさに銃を撃たんとしていた。銃口を丸太に向けて、引き金を引く。銃声が轟き、木片が飛び散った。次にその少年は銃をフルオート射撃のできる状態にし、銃を構えて引き金を引く。丸太に次々と弾痕がついていき、砂地に大量の木片が散乱した。とても銃を初めて扱うようには思えない光景である。ただの才能なのか、それとも……。その様子を見ていたロムド中佐は感心した表情で少年に歩み寄った。
「なかなか筋のいいガキだな。名前は何だ?」
 少年が銃に安全装置をかけ、青い瞳で中佐を見て言った。
「ドンゴ=カーリッヒです。ロムド中佐」
「お前は他のガキ共と違って優秀な兵士になりそうだな。ドンゴ、期待しているぞ」
「ありがとうございます」
 ドンゴ=カーリッヒ、ダリは一瞬でその名前を頭に叩き込んだ。ドンゴは銃を右手で持ちながらダリの近くを通り過ぎた。その時、その冷たい瞳でダリは睨まれたような気がした。
「まあ銃の扱いは訓練していけばどうにでもなる。問題なのは兵士として敵を殺すときの気構えだ。誰でも人を殺すとなると怯えて行動ができなくなってしまう。だが戦場でそんな事をされたらただの足手まとい以外の何物でもない。よってここで模擬演習をする」
 ロムド中佐は首にかけてあった笛を取り出し、息を吸い込んでそれを吹いた。笛の音を聞いた兵士達が先ほど丸太を運び出した倉庫に再び入っていき、何かを取り出してきた。それを見た子供達は恐怖に満ちた声をあげた。誰もが驚きと同様、恐怖を隠せないでいた。兵士が倉庫から取り出してきたのは、足首を縛られ逆さ吊りにされ、血を垂れ流している人の死体であった。