第19話

 質素な夕食を終えた子供達が、黄ばんだベッドに腰をかけて体と心の疲労を癒そうとしている。ダリは壁に寄りかかって、どうにかしてカミラの脱出計画の考えを改めさせようと頭を働かしている。脱走をして捕らえられた場合、おそらくはすぐには殺されずに苦痛を与えてから闇に葬られる、このような考えがダリの頭の中に浮かんでいる。
 壁に身を預けていても、訓練で蓄積した疲労は体から少しも抜けていかない。ダリの脚も立っているのがやっとの状態になっている。彼はベッドに腰をかけてシーツを見た。このベッドで眠りについて、翌朝には体全体がかゆくなっていそうだ。そのうえ、この施設では子供達には入浴時間が与えられない。それどころか水浴びですら、させてもらえないのだ。汗と砂埃で汚れた体のまま、就寝しなければならなかった。部屋にいる全員が、訓練で使った迷彩服を脱いで、最初に着ていたボロキレに着替えているが、体がべたついて不快感を覚えていた。
 突然、部屋にベルの音が鳴り始めた。いや、この様子ではおそらく施設全体にこの音が鳴り響いている。薄暗い廊下を音波が駆け巡っていく。そしてベルの音が鳴り止んだ後、汚れた蛍光灯の音が、静かに、順番に、一瞬で消えていく。施設が暗闇に包まれていく。やがて、ダリ達がいる部屋も、何も見えない黒い空間と化した。もうこの状態では外に出る事は不可能−もともと不可能であったが−である。彼は汚れたシーツを腰までかけて、静かに目を閉じた。
 それからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか。ダリは奇妙な音を聞いて目を覚ました。それは強風が施設にふきつけている音だった。だがそれは風の音には聞こえなかった。まるで、ここで殺された者達の怨念の声が、ここにいる者を呪い殺そうと言わんばかりの恐ろしさだった。その音で目が覚めたのはダリだけではなかった。あまりの恐ろしさに泣き出す子供もいた。この施設にいる限り、あらゆる意味において休まる時間はない。体は疲労と苦痛、心は恐怖と闘い続けなければならない。起きているときも、眠りについているときも。それでも睡眠をとらなければ、疲労は回復しない。幼い子供でもそれを知らない者はいない。
 子供達は暗闇の中に放置されている状態にあると言っても過言ではない。そのおかげで、次第に周りの状況、設置されている物体の位置や形状を視認することができるようになってきていた。子供達は逃げ出したい一心で扉や壁を強く叩く。その音は闇に包まれた迷路のような廊下に響いていく。ダリも彼らに交じって壁や扉を叩こうとも思ったが、何をしても無駄だという事は考えるまでもないことだった。ダリは暗い天上を見つめていた。そしてそのまま目蓋を閉じて、もう一つの暗闇を見た。そして、意識は別の世界へととばされた。